米国防総省機密文書に見るプエブロ号事件と朝鮮戦争危機

▽六八年二月六日、在日米軍第七〇四情報部隊所属、ウィリアム・ヘーブリン特務員報告書より

プエブロ号事件発生でチェンは六八年一月三十日、RU12を呼び出し

(1)北朝鮮と米国の間で戦争が起きた場合、日本政府はどう対応するか

(2)ベトナム戦がさらにエスカレートした場合はどうか

(3)米国・北朝鮮の戦争で、日本は中国の北朝鮮支援を予測するか。中国が北朝鮮を支援した場合、日本政府と自衛隊はどう対応するか

(4)こうした緊急時に関連した日米安保条約の特別条項は存在するのか

(5)日ソにおいても緊急時の密約、合意事項は存在するか−の五点を早急に調査するよう命じた。

《六八年一月二十三日、北朝鮮の元山港沖でアメリカの武装情報船プエブロ号が拿捕(だほ)され、乗組員が取り調べをうけた事件。ベトナム戦の最中であり、アジア・極東全域が緊張した》

チェンはRU12に対し三木外相とのインタビューで情報を得るよう勧め、自民党有力者の橋本登美三郎か田中角栄を通じて申し込むのが確実だということになった。

しかし、RU12は結局、三木外相に直接連絡を取れず、チェンとRU12は翌午前十時に再会することにし、チェンは当座の活動資金三万円を渡した。

RU12は橋本と連絡が取れ、橋本が三木外相との会合を約束したと話すと、チェンは三十一日夕までに中国本国に報告書を送らなくてはならないと述べ、三木外相とは別に情報通とされる政治問題専門家に意見を求めるよう指示する。三木外相は結局、国会開会中を理由に断ってきたためチェンは次のような報告書を作成した。

一、戦争勃発(ぼっぱつ)に際して日本の参戦は予想されない。

二、ベトナム戦エスカレートにも日本は何ら積極的役割を演じない。

三、戦争状態に入れば中国が北朝鮮を支援すると日本は信じているが、それが日本の安全を脅かすとは考えない。従って日本は積極的な対応策を採らない。

四、日米間には密約はない。

五、日ソ間においても密約や特務事項はない。



ヘーブリン特務員はチェン報告が十分な情報工作もないまま性急に作成された理由について送付方法に事情があったと推測し、三十一日夕からの東京周辺の出入港チェックを行い、二月一日に東京港を出航した中国船を突き止めたと付け加えている。

また、二月七日付報告書で、中国当局がチェンに指示した情報収集の目標事項が、社会党議員によって国会で質問されたことから、この国会質問と中国の知りたい事項が酷似していることに留意を促している。