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栗栖統幕議長更迭(1978年)の原因となった『超法規』発言とは?

Q1 栗栖さんの例の「ソ連軍が択捉島で上陸演習」という発言が、政治的にもかなり尾を引いているようですが、あの真相はどういうことだったのですか?

A1 あれは真相がわからないから問題なんです。 本来ならこの種のことは私のところ(統合幕僚会議)でまず状況判断をして、第一優先としてなにをすべきかを決め、そしてすぐ手を打つことが必要なんです。 これは偵察をしなければいけない、とか何とかね。 とにかく軍事判断というのは、その都度の勝負なんですから。 ところが今は、いろんな政治上の判断が優先して、それがやれないようになっているわけです。 ずっとそうなっている。 ですから、ことが起こってからすぐ偵察することも出来ないんです。 

Q2 それでは状況判断そのものが不可能ですね?

A2 そう、情報が流れてこないわけですからね。 択捉のあたりだったら、現在の自衛隊の能力で偵察できるんですけれども、それをやらないようになっているんですよ、今は。 ですから、まったく受け身の状態なんですね。 園田外務大臣(当時:園田直)は多分アメリカからの情報に基づいて「演習はなかった」とおっしゃったが、その後、ソ連のノーボスチ通信は、普通の演習をやったんだというふうにいっている。 そういう状態なんですよ。

Q3 尖閣列島における中国漁船の領海侵犯事件も、自衛隊から見て、同じような性質の問題を含んでいますか?

A3 あの場合にも、もしあそこに日本漁船がいたら保護しなければならないとか、向こうの飛行機が来たらこっちも緊急発進しなければいけないとか、そういうことが起こりうるわけですね。 現に航空自衛隊のほうでは、そういったケースがしょっちゅう起こっている。 海(海自)の方にも時々起こってます。 こういった場合に(自衛隊が)がどうすべきかということについては、今の国内法では疑問だらけなんですね。 あえて動けば、動いた本人の個人的責任になってしまう。 そこのところが、とくにパイロットなんかにとっては、非常な心理的重圧になっているようです。

Q4 尖閣列島については、自民党の大平幹事長(故大平正芳氏)憲法第九条との関係で自衛隊は出動させられないという意味のことを言っていましたが?

A4 日本が(尖閣列島の)領有権を主張しているのだとしたら、ちょっと解しかねますね、そういう考え方は。

Q5 大平幹事長の発言は政治的すぎる、ということですね。 栗栖さんのいわれるようなことは結局、日本のシビリアン・コントロールのあり方という問題にもつながってくるのではないでしょうか?

A5 シビリアン・コントロールというのは、自衛隊法の建て前からいっても、軍事専門家の補佐を受けて政策決定者が最後の決断を下す、ということだと思うんですね。 防衛庁の内局や他の省庁の補佐もあるが、軍事専門家集団も最高助言者として補佐する、と。 これが本当の建て前だと思うんですけれども、実際には必ずしもそうでなくなっている。 いわゆる内局が、正式には内部部局っていうんですが、全部の補佐責任を持っているというふうな格好になってきているわけです。 そこにいろんな問題があると思います。

Q6 防衛庁の内局が、制服の正当な発言権を事実上押さえてしまっている?

A6 学者、評論家や新聞、それに一般の国家公務員の場合も、比較的自由に発言が許され、その発言がちゃんと新聞などに伝えられる。 ところが、こと制服に関しては、何かひとこといったら大変なことになるという風潮があります。 そのへんがどうも、よくわからないんですけどね。 つまり、今のシビリアン・コントロールっていうのは、制服を着た者にモノをいわせないという意味でのコントロールだと、そんな気風があるんですね。

Q7 では、そういう状況をどうすべきとお考えですか?

A7 いま最も欠けているのは、ミリタリー・プロフェッショナリズムの確立ということだと思うんです。 したがって、軍事専門家集団の助言が政策決定者に通じるチャンネルがない。 この点を改めるべきだと思いますね。

Q8 シビリアン・コントロールのあり方といった建て前の問題と共に自衛隊にとって重要なのは、やはり防衛に関する基本計画ですが、いまいわれている基盤的防衛力構想、これについてはどうお考えですか?

A8 現在の防衛計画の大綱っていうのは、既に51年(昭和)に国防会議を経て閣議決定されちゃっているわけですね。 ですから私としては、この大綱そのものについてどうこういう立場にはないんですが、最近のいわゆる基盤的防衛力という考え方は、いうなれば四角なんですね。 つまり国という一定の面積全体を同じ密度の防衛力のもとに置こうとする。 しかし、これは防衛予算や戦力との関係からすると、どうなんですかね? 一つの国の一地方では成り立つ方式だと思うんですよ、これは。 たとえばノルウェーがそのやり方です。 ノルウェーは非常に細長い国だもんですから、全部を同じようにカバーするのは難しいということで、精鋭部隊を北部にもっていって、そこの防衛力を重点的に強化している。 ですから日本でも、たとえば北海道は北海道だけでやるということなら、一定面積を緻密にカバーする方式も成り立つ。 しかし、日本全体ではちょっと無理ですよね。

Q9 それはつまり、日本の防衛費が現在のようにGNPの1%といった枠をはめられていては、基盤的防衛力構想は効果的なものになり得ないという意味ですか?

A9 GNPの1%ということ自体が、十分に研究され積み上げられ結果として出てきた数字ではないように思うんですね。 これは多分に政治的あるいは財政的に決められた数字なんじゃないですか? ところが軍事的に見ますと、投資的経費というか、つまり人件費や食糧費などの消耗的な費用ではなくて、研究開発費、装備費、施設建設費など投資効果の残る費用の(防衛費全体に占める)比率がある程度以下になると、自衛戦力はどんどん沈下してゆくわけですよ。 いまアメリカでは、この投資的経費の比率が40%台に下がって、いろいろ騒いでいますけれども、それがいまの自衛隊の場合は30%以下でしょう?

Q10 すると、いわば費用対効果としては低下している?

A10 投資的経費が圧迫されると、どうしても摩耗しなければ更新しないということになる。 いまの政府の考え方はそれですね。 したがって、火砲なんかが遅れたものになってしまうんです。 とくに陸上自衛隊の大砲などは、アメリカに比べておそらく20年以上も遅れているでしょう。 いま使っている大砲は、第二次大戦型なんですよ。 陸の火砲に比較すると、海と空の方は多少新しくなっていますが...

Q11 ただ、一国の防衛力というものは軍隊の戦力だけによって決まるのではなく、国民全体の国防意識や軍隊への協力度によって相当に違ってくる、という意見については?

A11 その点では、西ドイツ(当時の西ドイツ)は1956年、徴兵制を採用しましたね。 西ドイツは、1955年に再軍備して以来、志願兵制度をとってきたんですが、志願兵だとやはり特殊な家庭の師弟しか軍隊に入ってこない。 専門部隊を作るという意味ではそれでいいんですけれども、国防意識を高めるとか、軍隊と国民の乖離を埋めるとかいうことになりますと、どうしても志願兵だけでは十分でないわけです。 で、西ドイツでは志願兵と徴兵制の併用という形をとったんですが、背景的には日本も同じような事情にあるといえるんじゃないでしょうか? いずれにしましても、徴兵制には国民に国を護るという意識を持たせる意味があると思いますね。 もちろん日本は志願制を国是としておりますから、状況はまったく違います。

Q12 結局のところ、栗栖さんのいわれる統幕の補佐機能が押さえられている問題、防衛計画と防衛費の問題、国民と自衛隊の乖離を埋める策をとる必要があるという問題、これらはすべて、憲法第九条に存在ということに帰着するように思われるのですが?

A12 そりゃ若い隊員なんかは、自衛隊は憲法違反だといわれたりすれば、神経にさわるかもしれませんけども、憲法論争そのものは自衛隊内部ではあまり意識されていないんです。 私どもとしては、自衛隊法に定められた権限だけをフルに使うことを考えてきた。 ですから憲法第九条についてはあまり考えてはおりません。

Q13 しかし、自民党の中曾根総務会長(当時、現中曾根大勲位)あたりは、自衛隊の現実の問題として、憲法第九条を改めない限りは、自衛隊が他国の軍隊と交戦した場合に、捕虜となった自衛隊員が国際条約に規定された捕虜としての待遇を受けられなくなる虞がある、という趣旨の発言をしたと新聞に報道されていましたね?

A13 交戦権を認めないというのは日本(日本国憲法)が勝手に決めていることであって、外国では自衛隊を完全な軍隊だと見なしているんです。 ですから、捕虜にした者に対しては当然、正規の捕虜扱いをすると思いますね。 もちろん、我が方としては要求できません。

Q14 その自衛隊の交戦権という問題について、いわゆる防衛出動との関連ではどんなふうに考えておいでですか?

A14 総理大臣がそれを命じた場合には、問題はないわけですね。

Q15 ということは、内閣総理大臣の命令がない限りは、いかなる緊急事態でも、自衛隊としてはなにもできない?

A15 そうなんです。 しかし、先ほど話しに出た日本漁船の保護だとか、向こうの飛行機の接近に対する緊急発進だとかいう場合には、部隊幹部の独断専行というか、超法規的にというか、そんな事態は起こりうるわけで、部隊幹部としてはそれだけの覚悟はもっておるようです。 とにかく、現在の自衛隊だけからいけば、外国の艦船に拿捕されつつある日本漁船のそばをたまたま通りかかっても、ことらとしては何もできないんです。 ですから、いざとなった場合はまさに超法規的にやる以外にはないと思うんです。 そのとき日本国民も、超法的行動を許す気分になるものと期待しているんですけどね。

Q16 「超法規的」というのは随分おだやかな発言ではありませんね。 憲法違反かどうかなどというチェック・システムを省くということですか? 具体的に説明してください。

A16 現状では、防衛庁の内局がまず会議を開くでしょう。 そしておそらく、作戦行動が良いか悪いかとか、憲法に違反するかとか何とかいうことになる。 それから、防衛庁長官に申し上げて、次に国防会議に移してから閣議で決定する。 さらに時間があれば、国会にかけるわけですよ。 これだけの時間がかかる。

Q17 現地部隊はその間、ただ待っているほかないのですね?

A17 現地部隊が手をこまねいていることは、おそらくないと思いますね。 止むに止まれず、超法規的行動をとることになるでしょう。 それは一種の正当防衛ですから。 いずれにしても、もはや法律がないからなにもできないなどと言っちゃいられないような事態が将来、起こりうると私は思いますね。 その時自衛隊が即応体制をとれるかどうかということがまさに問題なんです。

引用元:週刊ポスト 昭和53年7月28日・8月4日合併号「もし自衛隊が『憲法第九条』を無視したらどうなる」