人権擁護法案(仮称)の大綱の概要
第1  総則関係
  ○  国の責務:人権擁護の施策を総合的に推進すること。
  ○  人権侵害行為等の禁止:何人も,社会生活の領域における人種等を理由とする不当な差別的取扱いを始めとする人権侵害行為及び一定の差別助長行為等をしてはならない。
第2  組織関係
 1  人権委員会(仮称)
 国家行政組織法3条2項の規定に基づいて,人権委員会を法務省の外局として設置し,その所掌等を次のとおりとする。
  ○  所掌  人権救済,人権啓発,政府への助言。
  ○  構成  委員長1人,委員4人(うち非常勤3)。
  ○  任命  内閣総理大臣が両議院の同意を得て任命。
  ○  独立性 委員長,委員の職権行使における独立性を保障。
  ○  事務局 事務局及びその地方組織を設置。
 2  人権擁護委員
 人権委員会に人権擁護委員を置き,人権委員会は,市町村長から推薦を受けたその住民に加え,特に適任と認める者に,市町村長の意見を聴いて人権擁護委員を委嘱することができる。
第3  救済手続関係
 1  一般救済手続
 広く人権相談に応ずるとともに,任意の調査,措置(助言,指導,調整等)を内容とする一般救済手続を設ける。
 2  特別救済手続
  ○  公務員,私人による差別的取扱い,虐待等について,過料の制裁を伴う調査権限及び調停,仲裁,勧告・公表,訴訟援助(資料提供,訴訟参加)の救済手法を整備する。
  ○  報道機関による犯罪被害者等に対する報道によるプライバシー侵害等について,報道機関等による自主的な取組に配慮しつつ,調停,仲裁,勧告・公表,訴訟援助(資料提供,訴訟参加)の救済手法を整備する。
  ○  差別助長行為等に関し,過料の制裁を伴う調査権限及び勧告・公表,訴訟による差止めの救済手法を整備する。
 3  救済手続の特例
 雇用における差別的取扱い等については,厚生労働大臣(船員に関するものについては国土交通大臣。以下同じ。)も一般救済手続を行い,特別救済手続のうち調査及び調停,仲裁,勧告・公表,資料提供は,厚生労働大臣が行う。
第4  その他
  ○  法案提出時期        3月上旬を目途。
  ○  人権委員会の発足時期  平成15年6月〜7月ころを目途。



人権擁護法案(仮称)の大綱

第1  総則関係
 1  法律の目的
 人権救済及び人権啓発の措置を講ずることにより,人権擁護の施策を総合的に推進し,もって,人権尊重社会の実現に寄与することを目的とすること。
 2  国の責務
 国は,人権擁護の施策を総合的に推進する責務を有するものとすること。
 3  人権侵害行為等の禁止
  (1 ) 何人も,(2)のほか,不当な差別,虐待等他人の人権を侵害する行為をしてはならないものとすること。
  (2 ) 社会生活の領域において,人種等を理由として不当な差別的取扱いをしてはならないものとすること。
社会生活の領域:国・地方公共団体等の公務,商品・サービス・施設の提供,雇用,教育
人種等:人種,民族,信条,性別,社会的身分,門地,障害,疾病,性的指向
  (3 ) 差別助長行為等((2)の差別的取扱いを助長する目的で不特定多数者の人種等の属性に関する情報を公然と摘示し,又は不特定多数者に対して(2)の差別的取扱いをする意思を公然と表示する行為)をしてはならないものとすること。


第2  組織関係
 1  人権委員会(仮称)
  (1 ) 設置
 国家行政組織法3条2項の規定に基づいて,人権委員会を法務省の外局として設置するものとすること。
  (2 ) 所掌
 人権委員会は,人権救済,人権啓発,政府に対する助言を行うものとすること。
  (3 ) 構成
 人権委員会は,委員長,委員4人(うち非常勤3)をもって組織し,委員長及び委員の任期は3年とすること。
  (4 ) 任命
 委員長及び委員は,内閣総理大臣が,両議院の同意を得て,ジェンダー・バランスに配慮しつつ,任命するものとすること。
  (5 ) 独立性
 委員長及び委員は,独立して職権を行使し,法定の事由がなければ罷免されないものとすること。
  (6 ) 会議
 人権委員会は,会議を開き,多数決により議事を決するものとすること。
  (7 ) 事務局
 人権委員会に事務局を置き,事務局の地方機関として所要の地に地方事務所を置くものとし,地方事務所にはその支所を置くことができるものとするほか,人権委員会は地方事務所の事務を地方法務局長等に委任することができるものとすること。
  (8 ) 国会報告
 人権委員会は,毎年,国会に対し,所掌事務に関する報告を行わなければならないものとすること。
 2  人権擁護委員
  (1 ) 設置
 地域社会における人権擁護の推進を図るため,人権委員会に人権擁護委員を置き,人権擁護委員はその居住する市町村等において職務を行うものとすること。
  (2 ) 委嘱
 人権擁護委員は,市町村長が推薦したその住民のうちから人権委員会が委嘱するが,人権委員会は,他に特に適任と認める者があるときは,市町村長の意見を聴いて,その者にも人権擁護委員を委嘱できるものとすること。


第3  救済手続関係
 1  一般救済手続
  (1 ) 相談
 人権委員会は,人権侵害に関する相談に応ずるものとすること。
  (2 ) 人権救済の申出
 人権侵害の被害者は,人権委員会に対し,人権救済の申出をすることができるものとし,申出があれば人権委員会は,関与することが適当でない事件を除き,遅滞なく必要な調査を行い,適当な措置を講じなければならないものとすること。
  (3 ) 一般調査
 人権委員会は,人権救済を図るため,必要な調査を行うことができるものとすること。
  (4 ) 一般救済
 人権委員会は,人権救済を図るため,次の措置等を講ずることができるものとすること。
   ア  被害者等に対する助言,関係行政機関等の紹介その他の援助
   イ  加害者等に対する説示,啓発その他の指導
   ウ  被害者等と加害者等との関係調整
 2  特別救済手続
  (1 ) 救済措置
 人権委員会は,1(4)の措置のほか,次のア〜オの人権侵害(以下「特別人権侵害」という。)については(3)〜(5)の措置を,カの行為については(4),(6)の措置を,それぞれ講ずることができるものとすること。
   ア  第1,3(2)の差別的取扱い
   イ  次の虐待
    (ア ) 公権力の行使に当たる公務員による虐待
    (イ ) 社会福祉施設,医療施設,学校等における虐待
    (ウ ) 児童虐待防止法2条に規定する児童虐待
    (エ ) 配偶者,同居の高齢者・障害者等に対する虐待
   ウ  人種等を理由とするハラスメント,地位利用を伴うセクシュアルハラスメント
   エ  報道機関による次の人権侵害(ただし,報道機関等による自主的な取組を尊重するものとする。)
    (ア ) 犯罪被害者等に対する報道によるプライバシー侵害
    (イ ) 取材を拒否している犯罪被害者等に対して反復・継続して行われるつきまとい,待ち伏せその他の過剰な取材
犯罪被害者等:犯罪被害者とその家族,被疑者・被告人の家族,少年の被疑者・被告人
   オ  ア〜エに準ずる人権侵害で,被害者の置かれている状況等から,被害者が自らその排除・被害回復を図ることが困難であると認められる人権侵害
   カ  第1,3(3)の差別助長行為等
  (2 ) 特別調査
 人権委員会は,特別人権侵害((1)エ及びオを除く。)及び(1)カの行為については,過料の制裁を伴う次の調査をすることができるものとすること。
   ア  事件の関係者に出頭を求め,質問すること。
   イ  人権侵害等に関係のある文書等の所持人に対し,その提出を求めること。
   ウ  人権侵害等が行われ,又は行われている疑いがある場所に立ち入り,文書等を検査し,関係者に質問すること。
  (3 ) 調停,仲裁
   ア  人権委員会は,特別人権侵害について,当事者の申請により,調停及び仲裁をするものとし,調停については,職権で付することもできるものとすること。
   イ  調停及び仲裁に参与させるため,人権委員会に人権調整委員を置き,人権調整委員は,人権委員会が任命するものとすること。
   ウ  調停及び仲裁は,人権委員会の委員長,委員,人権調整委員のうちから,事件ごとに,人権委員会の委員長が指名する3人の委員で組織する調停委員会及び仲裁委員会により行うものとすること。
  (4 ) 勧告・公表
 人権委員会は,特別人権侵害及び(1)カの行為について,救済のため必要があるときは,その行為者に対し,その停止等を勧告することができるものとし,その行為者がこれに従わないときは,その旨及び勧告の内容を公表することができるものとすること。
  (5 ) 訴訟援助
   ア  人権委員会は,勧告をした特別人権侵害について,被害者から申出があるときは,関係者の利益等も考慮した上で,人権委員会が保有する関係資料を閲覧させ,その謄抄本を交付することができるものとすること。
   イ  人権委員会は,勧告をした特別人権侵害について,特に必要があるときは,当該事件に関する訴訟に参加することができるものとすること。
  (6 ) 差別助長行為の差止め等
 人権委員会は,(1)カの行為をした者が勧告に従わない場合において,必要があるときは,その行為者に対し,その停止等を請求する訴訟を提起することができるものとすること。
 3  救済手続の特例
 雇用における人種等を理由とする差別的取扱い及び労働者に対して職場においてなされる人種等を理由とするハラスメント等については,厚生労働大臣(船員に関するものについては国土交通大臣。以下同じ。)も一般救済手続を行うものとし,特別救済手続のうち,2(2)の調査及び同(3),(4),(5)アの措置は,厚生労働大臣が行うものとすること。
第4  その他
 1  法案提出時期        3月上旬を目途
 2  人権委員会の発足時期  平成15年6月〜7月ころを目途