武器輸出三原則
1967【昭和42】年に佐藤栄作首相が国会答弁(※1)で、「武器」(※2の輸出は、外国為替及び外国貿易法等により経済産業大臣の許可が必要で、「(1)共産圏向けの場合、(2)国連決議により武器などの輸出が禁止されている国向けの場合、(3)国連紛争当事国またはそのおそれのある国向けの場合」、の3例を示して武器を輸出しないと述べたことから、武器輸出3原則が生まれた。
その後、1976【昭和51】年になって三木武夫首相が、対象地域以外への武器輸出も「慎む」、かつ、武器製造関連設備も武器に準じて扱うなど、より厳しい規制(※3)を設けたことで、事実上一切の武器輸出が禁じられたことになった。
1981(昭和56)年には衆参両院本会議が、政府に武器輸出3原則のための実効ある措置をとるよう求める決議を全会一致で可決したが、1983【昭和58】年中曽根康弘内閣になってから、アメリカに対してだけは日米同盟上この3原則を緩め、武器技術に限って供与する途を開いた(ただ、武器輸出や共同生産は行わないことを確認)。
さらに、周辺有事の際に日米両国が機能的に対応するためには日米防衛産業同士による合併・買収などができるよう弾力的運用が必要ではないかとの考え方をアメリカ政府側は示している。
また、政府は、安全保障会議の了承を経て、1999【平成11】年度から海上配備型上層システム(NTWD)を対象として米国との間で共同技術研究に着手することを決定した。
2004(平成16)年2月4日、日本経団連首脳と自民党五役の懇談会が開かれ、経団連側は、「日本の防衛産業の技術レベルは高いものの、武器輸出ができないという原則があるため、国際的な共同開発に参加しにくいため、『防衛産業の技術・生産基盤自体が失われかねない』と危機感を募らせている」との理由から、3原則見直しの検討を要望した。
これに関して、2004【平成16】年末に策定する新たな「防衛計画大綱」に向けて設けられた小泉純一郎首相の私的諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長=荒木浩・東京電力顧問)は04年7月27日の会合で、論点整理の文書をまとめたが、それは、自衛隊を国際協力に積極活用することや、事実上、一切の武器輸出を禁じている武器輸出3原則の見直しを進める方向を示していた。
なお、2004【平成16】年8月9日、首相は、長崎市内で原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に参列した後、記者団の質問に答えて、「3原則の精神を守りつつ、現実の時代の進歩にどうあわせていくか、精神をどう維持していくのか、その観点からいろいろ研究を進めていかないといけない」と述べた。
資料
1.「武器」の輸出は、外国為替及び外国貿易管理法(昭和24年法律第228号。現行は、外国為替及び外国貿易法)及び輸出貿易管理令(昭和24年政令第378号)により経済産業大臣の許可が必要。
2.武器輸出3原則(1967【昭和42】年4月21日;佐藤栄作内閣総理大臣の衆議院決算委員会での答弁【要旨】)(※1)
外国為替及び外国貿易管理法及び輸出貿易管理令についての政府の運用方針として、具体的には、次の場合は、武器輸出は認められない。
1) 共産国向けの場合
2) 国連決議により武器等の輪出を禁止されている国向けの場合
3) 国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合
3.武器輸出に関する政府統一見解(1976【昭和51】年2月27日;三木武夫内閣総理大臣の衆議院予算委員会での答弁【全文】)(※3)
(1) 政府の方針
「武器」の輸出については、平和国家としての我が国の立場からそれによって国際紛争等を助長することを回避するため、政府としては、従来から慎重に対処しており、今後とも、次の方針により処理するものとし、その輸出を促進することはしない。
1) 3原則対象地域については、「武器」の輸出を認めない。
2) 3原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。
3) 武器製造関連設備(輸出貿易管理令別表第1の第109の項など)の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする(1991【平成3】年の輸出貿易管理令の一部改正で、「第1項」に)。
(2) 武器の定義(※2)
「武器」という用語は、種々の法令又は運用の上において用いられており、その定義については、それぞれの法令等の趣旨によって解釈すべきものであるが、
1) 武器輸出3原則における「武器」とは、「軍隊が使用するものであって、直接戦闘の用に供されるもの」をいい、具体的には、輸出貿易管理令別表第1の第197の項から第205の項までに掲げるもののうちこの定義に相当するものが「武器」である(1991【平成3】年の輸出貿易管理令の一部改正で、「第1項に」)。
2) 自衛隊法上の「武器」については、「火器、火薬類、刀剣類その他直接人を殺傷し、又は、武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装置等」であると解している。なお、本来的に、火器等を搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として物の破壊を目的として行動する護衛艦、戦闘機、戦車のようなものは、右の「武器」に当たると考える。
4.武器輸出問題等に関する決議(1981【昭和56】年3月20日;衆議院本会議)及び1956【昭和56】年3月31日参議院本会議(全文)
「我が国は、日本国憲法の理念である平和国家としての立場をふまえ、武器輸出3原則並びに昭和51年政府統一方針に基づいて、武器輸出について慎重に対処してきたところである。
しかるに、近時右方針に反した事例を生じたことは遺憾である。よって政府は、武器輸出について、厳正かつ慎重な態度をもって対処すると共に制度上の改善を含め実効ある措置を講ずるべきである。
右決議する。」
5.対米武器技術供与についての内閣官房長官談話(1983【昭和58】年1月14日)
一昨年(1981年)6月以来米国政府から日米間の防衛分野における技術の相互交流の要請があり、その一環としての対米武器技術供与の問題について政府部内で慎重に検討を重ねてきた結果、この度、次の結論に達し、本日の閣議において了承を得た。
(1) 日米安保体制の下において日米両国は相互に協力してそれぞれの防衛力を維持し、発展させることとされており、これまで我が国は米国から防衛力整備のため、技術の供与を含め各種の協力を得てきている。近年我が国の技術水準が向上してきたこと等の新たな状況を考慮すれば、我が国としても、防衛分野における米国との技術の相互交流を図ることが、日米安保体制の効果的運用を確保する上で極めて重要となっている。これは、防衛分野における日米間の相互協力を定めた日米安保条約及び関連取極の趣旨に沿うゆえんであり、また、我が国及び極東の平和と安全に資するものである。
(2) 政府は、これまで武器等の輸出については武器輸出3原則(昭和51年2月27日の武器輸出に関する政府方針等を含む。)によって対処してきたところであるが、上記にかんがみ、米国の要請に応じ、相互交流の一環として米国に武器技術(その供与を実効あらしめるため必要な物品であって武器に該当するものを含む。)を供与する途を開くこととし、その供与に当たっては、武器輸出3原則によらないこととする。この場合、本件供与は日米相互防衛援助協定の関連規定に基づく枠組みの下で実施することとし、これにより国際紛争等を助長することを回避するという武器輸出3原則のよって立つ平和国家としての基本理念は確保されることとなる。
(3) なお、政府としては、今後とも、基本的には武器輸出3原則を堅持し、昭和56年3月の武器輸出問題等に関する国会決議の趣旨を尊重していく考えであることは言うまでもない。
6.弾道ミサイル防衛(BMD)に係る日米共同技術研究に関する内閣官房長官談話(1998【平成10】年12月25日)
(1) 本日、政府は、安全保障会議の了承を経て、平成11年度から海上配備型上層システム(NTWD=Navy Theater Wide Defense=海軍が推し進めるTMD構想の一翼で、主に上層・大気圏外での弾道ミサイルを防衛する海上配備型の広域ミサイル防衛システムで、イージス巡洋艦タイコンデロガ級及びイージス駆逐艦アーレイ・バーク級のVLS〔垂直発射機〕より迎撃ミサイルが発射される)を対象として米国との間で共同技術研究に着手することを決定した。
(2) 政府としては、冷戦終結後の核を始めとする大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散状況を踏まえると、弾道ミサイル防衛(BMD)が専守防衛を旨とする我が国防衛政策上の重要な課題であり、我が国の主体的取り組みが必要であるとの認識の下、これまで所要の検討を行ってきたところである。
(3) 政府としては、今後の我が国の取り組みとしては、米国との間において、NTWDを対象として共同技術研究を行うことが、最も効率的かつ実りあるものであり、また、かかる日米間の協力は、日米安保体制の信頼性の向上等に資するものであると考えている。
(4) 宇宙の開発及び利用に関する国会決議との関係については、もとより国会決議の有権解釈は国会においてなされるべきものであるが、政府としては、近年弾道ミサイルが拡散している状況にあるところ、BMD(弾道ミサイル防衛構想=Ballistic Missile Defence=発射された敵の戦略ミサイルを、地表面から宇宙まで張り巡らした迎撃システムで探知し、発射直後〔=ブースト【推進加速】段階〕、大気圏外〔=ミッド【中間】コース段階〕、大気圏再突入〔=ターミナル【終末】段階〕で迎撃・破壊する多層防衛をめざす構想)システムが、我が国国民の生命・財産を守るための純粋に防御的な、かつ、他に代替手段のない唯一の手段であることを踏まえれば、BMDシステムに関して我が国が主体的に取り組んでいくことは、本件国会決議の趣旨及びそのよって立つ平和国家としての基本理念にも沿ったものであり、国民各位の御理解をいただけるものと考えている。
なお、この関連で、本年9月、衆議院においてなされた北朝鮮によるミサイル発射に関する国会決議において「政府は我が国国民の安全確保のためのあらゆる措置をとる」べきこととされているところである。
また、BMDに係る日米共同技術研究における武器技術供与は、対米武器技術供与取極の枠組みの下で実施されるものである。
(5) なお、本件は技術研究であり、開発段階への移行、配備段階への移行については別途判断する性格のものである。これらの判断は、BMDの技術的な実現可能性及び将来の我が国の防衛の在り方等について十分検討した上で行うこととする。